煩悩を消し去るテクニック  SPECIAL EDITION

 

映画化を記念し、製作に携わった方々にダイエット体験や映画の裏話を聞くスペシャル企画!
第2回は、監督・元木隆史さんと原作者である中丸謙一朗による特別対談。
ダイエットからこの映画に込めたこだわり、そして男にとってのカッコよさについて、熱く語り合っていただきました。

 

『ロックンロール★ダイエット!』監督
元木隆史さん

 

もとき たかし●1973年、神戸生まれ。93年に大阪芸術大学映像学科に入学、同大学教授であった中島貞夫監督に師事する。2001年には修士作品として監督した自主製作作品『プウテンノツキ』がながら劇場公開される。主な監督作に『ピーカン夫婦』(05)、『転生 TENSEI』(06)など。その他、ドキュメンタリー映画『僕は神戸生まれで、震災を知らない』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭2005 “ニュー・ドックス・ジャパン”正式招待作品となる。

 

 

 

嶋さんが「革パン履きたいって」ポツンと言った時、
長澤奈央ちゃんが半笑いになったんです。

 

 

中丸 撮影はどうでした? 後半の嶋(大輔)さんのバンドシーンなんて、すごくカッコよかったですね。
監督 ありがとうございます。撮影は一気にやりきった感じです。動き出したら、すごい勢いで終了しました。原作ありきでやったのは、今回がはじめの経験でして、それまでは自分の好きなようにやっていたので、そういう意味で今回は違っていました。クランクインの時もなんだかボ〜ッとしてしまいまして、「あっ! 三原じゅん子さんだ」みたいな(笑)。
中丸 原案として使ってもらった『ロックンロール・ダイエット』は、ドキュメントとしてのダイエットをやったのがちょうど、今から10年以上も前、33歳くらいの時なんです。だから、今読み返してみると、「メタボ」っていうより、「はねっかえりの若者が初めて老いに触れる」みたいな、すごく「無邪気な感じ」がするんですよね。でも、今回の映画は、主演の嶋さんが今の僕と同じ40代で、完全な「メタボ対策」映画(笑)。そのずれが個人的にはすごくおもしろかったですね。
監督 僕は中丸さんよりは一世代下ですが、30代になり、やはり、20代とは考え方や感じ方、おまけに体型まで、だいぶ違ってきました。ちょっとずつちゃんとした大人になろう、しかも、「メタボではない大人」になろうと(笑)。
中丸 ある程度の年齢になると、人は世間に対しては割りと「常識人ですよ」というところを保とうとするけれど、やっぱり感覚はとんかつ大盛り食ってる学生の時と変わっていない。で、気持ちは変わっていないのに、「なんで腹出てんだ!」って、びっくりするのが30代。実際、僕も20代の時は64キロくらいだったのが、気がついたら78キロになってた。しばらくはあんまり気になってなかったんだけど、ある日、急に思いっきり気になった(笑)。
監督 急に何の計算もなく(笑)。
中丸 そうそう。映画でも、嶋さんがダイエットを決意する時の理由づけを、あんまりグダグダとは、描いていないですよね。
監督 はい。現場で嶋さんに「なんで芝居の中で突然、革パン履きたいって言うんだ、俺」って言われたんです。それは長澤奈央ちゃん演じる奈々に罵倒された主人公(嶋大輔)が「革パン履きたい!」って宣言をして、そこから話が展開していくシーンなんですけど、台本には元々、そういう気持ちになっていくためのいろいろなやり取りがあった。それで(革パンを穿くという決意にまで)気持ちが繋がっていたんですけど、なぜか僕は、「余計なことはいらない!」という気持ちになった。いろいろな条件を出されて「革パン履きたいって」言うのより、下向きながらポツンと「革パン履きたい」って、言ってもらいたかった。それを一生懸命に説明して、嶋さんには納得してもらいました。
中丸 「急に」とは言われても、やっぱり、男はそこに無理やり何かを見つけたくなるんだろうね(笑)。
監督 そのシーンを撮った時、すごく覚えているんですけど、嶋さんが「革パン履きたいって」ポツンと言った時、長澤奈央ちゃんが半笑いになったんです。
中丸 うーん、つらい話(笑)。
監督 でも、そうなんだよな、理路整然とダイエットしろって言われて、自分の中で、「俺はこうでこうだから、ダイエットする」っていうんじゃなくて、突然ポロンと出てきた形が素直な本音になっていて、僕はすごくいいシーンだなと思いましたね。
中丸 この映画の売りって、その「ナンセンスな感じ」ですよね。「デブ」とか「メタボ」って、やっぱり生理的な話だから、どんどんナンセンスになっていったほうがいい。おとっつあんって、急に何かを始めて、カラダを壊す人って多いじゃない。急に始めて無理しすぎる。女性から見たらすごくナンセンスですよね。でも、僕は、その「男がナンセンスに何かを思いついたときのエネルギー」っていうのが、すっごく好きなんですよね。
監督 そうですね。なかなかやらないのに、やったら倒れるまでやるっていうみたいな。嶋さんには、ほんとにそういう感覚がよく似合うなと思いましたね。
中丸 嶋さんが若い時にやっていたリーゼントとかツッパリってこと自体が、もうナンセンスじゃない。ツッパるのはわかるんだけど、なんでそんな格好なんだと。
監督 そういうナンセンスさって、今の子から見たら、もしかしたら、わけがわからないかもしれない。説明がつかない。僕は、そこのところを、けっこうしつこく追っていて、嶋さんのかっこいいリーゼントを絶対横から撮りたくて、狙っていたんだけど、最後に下から煽っちゃった。そしたら、いろんなところのお肉が目立っちゃって(笑)。でも、その笑顔がいいんです。
中丸 いいの、いいの。説明なんかいらない。それ全部が「勲章」なんだよ(笑)。

 

やっぱり、男を動かすには、
ちゃんとした「思想」が必要なんですよ。

 

中丸 原作本でも、「ダイエットとは、ずっとやり続けること」だって書いているですけど、こうなると「諸行無情」感みたいなものがある。もう、ただひたすら。俺、ずっとやってるんですよ、ダイエット。バカみたいに。
監督 そうなんですか。そういえば、どことなくフィットネスされている感じが……。
中丸 ダイエットしているからフィットネスされているわけじゃなくて、日々めちゃめちゃ太り続けてるから、飯食うためにダイエットしてるんです。マッチポンプの世界(笑)。
監督 それいいですね。自分で火付けて消火して回る。
中丸 実はこの前、杉並の事務所から横浜西部にある実家まで歩いて帰ったんですよ。距離は45キロ。11時間かかった(笑)。もう、二度とやらない、っていうのが率直な感想なんだけど、でも、すっごいうれしかったんですよ。他人にとっては、意味は全くないんだけど、この歳になっても、ああ、こういうバカなことできるんだ、俺、って。
監督 なんでしょ。自分のカラダを知るっていうことなんですかね。
中丸 そうそう。若い人は「自分探し」っていうじゃない、でも40過ぎると自分はもう探し終わっているわけですよ。大雑把に言うと人生の半分くらいは来ているわけだから、もう今さら探したって意味がないし、たいした自分でもなかった(笑)。でも、その探し終わった微かな「自分」を確認してる。誰も褒めてくれないから、自分で愛おしんでるんですよ。
監督 なるほど、そういう意味では、まさにこの映画のテーマ。「自分確認」という言葉こそ現場ではなかったですけど、とにかく嶋さんの持つ内面的な「かっこよさ」みたいなものを、他人の目からも、もう一度確認してみたかった。
中丸 劇中の嶋さんは、最後の方は「どうだ、俺かっこいいだろ」と思ったわけじゃなくて、本当の意味での自分を確認したんだと思う。その終わった瞬間をみんなが見て、かっこいいじゃんということになった。
監督 そうですね。接してみて分かったことは、嶋さんは、とてもシンプルに人生を生きたいと思っていらっしゃる。いろいろな番組で体型のことや健康のことをあれこれ言われてたけど、どこかそんなこと、どうでもいいみたいな「芯の強さ」みたいなものが感じられた。
中丸 ダイエットの本質ってなんだっていうテーマにしても、人間、太っていようが痩せていようが本来どうでもいいわけですよ。それはやっぱり個人の話でしょ。それを人から評価され、しまいには40歳以上は「メタボ、メタボ」って、国にまで批判される(笑)。でも、劇中の嶋さんはそうことじゃ動かない。やっぱり、男を動かすには、ちゃんとした「思想」が必要なんですよ。
監督 それが「ロックンロール」(笑)。
中丸 そう、そう。
監督 でも、もうだいじょうぶです。嶋さんは動き出しましたから。映画の公開までに10キロ痩せると(笑)。
中丸 お、それすごいね。期待しちゃうな。